運と朝

東京港区・麻布のわがプチ・officeを出て、まぶしい朝日をうけながら、西外堀通りを、広尾の駅にあるく。

ミンクのショートコートを着た若い女性が、トイプードルのリードをもって優雅な散歩、腕時計をみると、午前8時50分。一般の方の出勤の時間は、少し過ぎたのかも知れない。

足早に、颯爽と、私を追い抜いていくのは、170センチぐらいのスマートな白人女性だ。モデルにしては、背が低い。髪型やファッションからして、踊り子ではないかな。それにしても男性がすくないのは、今ごろ電車か車の中だからだろうか。

歩いていると、ビルのほんの一角だけが、モスクワの街のある部分に似ている。また、北欧やボストンの一角の匂いであったり、ヨーロッバであったりもする。
私の情動記憶の主観は、様々なおもいでを紡ぎ出す。

同時に、そこに生きる人々の姿をも、思い出させてもくれる。

前に一度きた店、有名らしい、パンとキャフェの小さなその店に入る。
通りに面したcounterには、外国人の男性、お洒落した若いママが、三歳ぐらいの愛くるしい女の子と、行儀よく、counterに並んで、話している。店内四つあるテーブルの三つがうまっていて、アベックの側の空いている奥の席に、つま先立つ思いで、間を通った。

アベックの白人女性が、にこやかに、自分のバッグをとり、席をあけ、どうぞ、という。相方の日本人男性は、じろりと私をみた。二人に【有難う】と曖昧に言い、席につく。

しばらくすると、アベックの髪の長い白人女性が、すらりと立つと、
【じゃあ、わたし、失礼します】日本語でいい、さっさと出て行った。
男は、下をうつ向いたままである。(オイオイ、フラれても、立って見送ってあげなよ、ふてくされても、好転はしないぜ!  最後の彼女の後ろ姿ぐらい、見送ったって、男が廃る訳じゃないんだから)    ナーンテ、かってな推量をする。
私の身勝手なあて推量による、現代のきぬぎぬの別れ~

夢は夜ひらく、と歌われたけれど、
朝もけっこうdramaが、ある。

運の強い人、弱い人のことをずっと考えていた。

ある科学者は、運なんかにひどい偏りはないといい、【ランダムウォークモデル】と言う、数学理論を持ち出してかたる。

 わたしは、アベックの二人を見ている内に、この数学理論を運命にあてはめることの、大きな欠点に気付いた気がした。

認知的焦点化理論を発展させた顕潜一致の鏡像化理論を、はやく一般化して発表しなければと、カボチャのポタージュをいただきながら、思った。
乱暴に、荒々しく席を立った若い男に(大丈夫だよ、今度こそ、ラッキーをつかむさ、有難う!  君のおかげで、凄いヒントをいただいたんだ。本当にありがとう!)

      幸運な朝に感謝の  むらっち


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