寂しくなったなぁ、村田はん、と言ったのは、83歳になる義父である。
フィンランドへ発つ前夜、どうにか、時間をつくって夕食に実家を訪れたときの挨拶がわりの、義父の言葉だった。
俳優の渡瀬恒彦さんが、ガンで亡くなったことを、言っているのだ。
私は、渡瀬さんとは面識がないが、弟のテレビドラマの監督である忍は、渡瀬さんに気に入られていて、良く飲みに行っていっていたから、私に、そう言ったのだろう。渡瀬さんを主役にしたドラマで、弟の忍監督は、何かの賞も受賞していただけに、人に言えぬ深い何かを感じているだろう。
生前、渋谷の行きつけの店などで、何回かお目にかかった石原裕次郎さんが、亡くなったときは、深い喪失感にさいなまされた。
芸能界の陰のドンといわれた関さんが、裕次郎さんと兄弟のように親しく(と私には見えた)、その関さんに私は、可愛がられてもいただけに、悲しみは深かった。
「人には、死に頃がありますなあ」と、ポツリとつぶやいた元官房長官の藤波孝夫さんの言葉が、ずっと焼き付いている。
「死に頃があれば、生き頃もありますか?」と、すかさず言った自分が、今となれば、恥ずかしい。
★桃の花に酔うムラッチ